研究報告書 2012.01.01 老いる都市と医療を再生するまちなか集積医療の実現策の提示 この記事は分で読めます シェア Tweet 酒向正春 デンマーク国立オーフス大学脳神経病態生理学研究所客員教授(世田谷記念病院副院長/前初台リハビリテーション病院脳卒中診療科長) 武田俊彦 厚生労働省政策統括官付社会保障担当参事官室長 中川雅之 日本大学経済学部教授 長谷川敏彦 日本医科大学医療管理学教室主任教授 豊田奈穂 NIRA研究調査部主任研究員 斉藤徹史 NIRA研究調査部主任研究員 概要 2012年、第1次ベビーブーム期に誕生した団塊世代が65歳を迎える。わが国は本格的な人口減少、超高齢社会へと移行する。そこでは、これまでの人口規模の拡大を前提とした都市の成長路線の発想を180度転換するとともに、超高齢社会を支える医療供給システムへ移行することが迫られる。 本報告書では、「都市の縮小と機能集積」、および「地域包括ケアによる円滑な医療・介護供給システムの構築」という2つの政策をセットで実施することにより、人口減少・高齢化という難題を克服できることを提言する。政策1:都市の縮小と機能集積 人口減少やインフラの再編に合わせて都市の縮小を可能とする手法を都市計画に取り入れ、需要が増加する都市機能をまちなかに集積させ、高密度化を図る。政策2:円滑な医療・介護供給システムの構築 出資の持ち分をもつ医療法人によるホールディングカンパニー型の新型医療法人を容認し、医療・介護、まちづくり等多様なサービス提供主体の連携を図る。 全文を読む Executive Summary (English) INDEX エグゼクティブサマリー 第1章 医療福祉の視点からまちづくりを考える-今なぜ「医療・福祉」と「まちづくり」なのか- 第2章 これからの都市と医療福祉-人口減少・超高齢社会を見据えた都市縮小とインフラ再編- 第3章 これからの医療介護システム-今後の医療・まちづくりの総合展開と関連法人見直しの必要性- 第4章 新たなまちづくりへの挑戦-人もまちも元気になる都市構想とタウンマネジメント- エグゼクティブサマリー 第1章 医療福祉の視点からまちづくりを考える-今なぜ「医療・福祉」と「まちづくり」なのか- 長寿の実現にともない、次世代を生み育てる第2の人生とその後の第3の人生がほぼ同じ長さになり、個々の人生も、そこに関わる医療や都市も転換期を迎える。地方中核都市、大都市では状況に違いはあるが、いずれもこの未曾有の超高齢時代をいかに乗り切るのかが今、問われている。●支える医療 超高齢社会における医療の目的は「治す」から高齢者の生活支援「支える」に移行し、総合診療医(老人医)のもと福祉ケアとの統合、ネットワーク化が求められる。●高齢期の生活を支える都市設計 帰属組織を持たない高齢人口が多数派となり、職場と住宅を中心とした都市構造は娯楽や医療等を空間の中心へとシフトさせ、都市が生活を支える仕組みを設計する。 第2章 これからの都市と医療福祉-人口減少・超高齢社会を見据えた都市縮小とインフラ再編- 地方都市ではこれまでも過疎化や高齢化が指摘されてきたが、今後、首都圏の大都市周辺部でも急速にそうした状況が進行する。60~70年代に開発された大都市周辺のニュータウンは高齢化率が周辺地域に比べて高く、開発当初のインフラも築後30年以上を経て、改修・更新の時期が迫っている。加えて、機能面でも高齢化への対応の遅れが深刻化している。 人と都市インフラの高齢化問題にどう対処していくかが地域に問われている。都市を刷新するには、「都市の縮小」と「機能集積」による高密度化を通じた資源利用の効率化、需要の高い都市機能を集積させた一体的な配置が必要である(図1参照)。これらは住民の生活の質(QOL)の向上にも資する。●「都市縮小」を可能にする都市計画制度 人口増加を前提とした都市計画を見直す。インフラの維持管理に費用便益分析を取り入れることにより、公共サービスを提供する地域を特定し(都市サービス境界)、都市範囲の縮小を可能にする。その際、実施過程を明確にすることで人々の住居の移転を促す。●都市機能の再配置と集積を促すガバナンス 都市計画担当に加え、医療・福祉関係者も参加し、複数の市町村が行政域を超えた地域を対象とする広域的な都市計画を決定、管理するガバナンスの仕組みを構築する。 また、現行の物理的属性の管理を主眼とする「地区計画制度」ではなく、各種機能の配置を行い得る「機能再配置型地区計画」を新たに創設する。医療・介護サービスや高齢者住宅など主要な都市機能を集積させる「まちなか集積医療地区」に高齢者をはじめ住民の移動を促すバウチャー制度の導入を検討する。 第3章 これからの医療介護システム-今後の医療・まちづくりの総合展開と関連法人見直しの必要性- 人口の著しい高齢化にともない、急性期医療を提供することに主眼が置かれていた病院中心の供給システムは、地域で支える包括ケア型医療へと早急に移行する必要がある。しかし、わが国では民間病院を中心に医療供給体制が整備されてきたため、現行の医療法人制度のままで新たなシステムへの再編は難しい。そのため、非営利性、附帯業務の制限などの原則を堅持しながら、医療法人制度を以下の3つのレベルに分けて見直しを進め、医療法人相互の連携・再編、関連サービス提供主体との統合を促し、充実した医療介護サービスの提供体制を構築する。●医療法人相互の連携 新たにホールディングカンパニー型の新型医療法人を創設する。個々の医療法人(事業医療法人)には持ち分を有することを認め、新型医療法人とそこに属する個々の事業医療法人の間に限り配当を許容する。●医療介護のサービスの提供主体との連携 新型医療法人が特定の医療介護サービス提供主体(例えば、株式会社立の訪問看護ステーションや居宅介護支援事業所など)の持ち分(株式)を保有し、配当を受けることを許容する。●新型医療法人とまちづくりを担う主体との連携 新型医療法人がまちづくりの株式会社(共同事業体)に出資することを認める。その際、出資に一定の限定を付すことにより、まちづくり事業の経営の状況が新型医療法人に波及するのを防ぐ。他方、一定割合の範囲で地域の意向を新型医療法人の経営に反映させるため、まちづくり会社が医療法人の持ち分を持つことも検討する。 第4章 新たなまちづくりへの挑戦-人もまちも元気になる都市構想とタウンマネジメント- 健康、医療・福祉、高齢期の生活の質の向上を考慮し、都市構造の再設計やサービスの一体供給による都市のコンパクト化など、上記で示した方向性に向けた新たな挑戦が地域で始まっている。いずれも従来の発想を越えて、未曾有の社会変化に対応可能な構造に転換を図ろうという試みである。●健康医療福祉都市構想 東京都渋谷区(初台ヘルシーロード)、東京都世田谷区(二子玉川ヘルシーロード)では中心市街地の既存ストックを活かし、地域で充実した生活を実現することを目指す。●まちづくり会社 まちづくり会社を中心に多様な主体をマネジメントする仕組みを構築し、医療・介護・福祉をはじめ住民のQOLの向上に資するまちづくりのスキームを機能させる(図2参照)。●柏の葉キャンパスシティプロジェクト 千葉県柏市の柏の葉キャンパスシティでは公・学・民の知と技術を集積により、まちに健康づくりの仕掛けを組み入れ、一体的にサービスを供給する超高齢社会の都市モデルの構築が進む。●まちづくり会社によるタウンマネジメント 高松丸亀町商店街では中心市街地の課題を克服するため、土地の利用権と所有権を分離するシステムを導入し、一元的なタウンマネジメントを実現させている。 図1:まちなか集積医療実現のための政策パッケージ 図2:これからのまちづくり会社のイメージ 目次第1章医療福祉の視点からまちづくりを考える- 今なぜ「医療・福祉」と「まちづくり」なのか-長谷川敏彦第2章これからの都市と医療福祉- 人口減少・超高齢社会を見据えた都市縮小とインフラ再編- 中川雅之、豊田奈穂第3章これからの医療介護システム- 今後の医療・まちづくりの総合展開と関連法人見直しの必要性- 武田俊彦第4章新たなまちづくりへの挑戦- 人もまちも元気になる都市構想とタウンマネジメント- 1.健康福祉医療都市構想 酒向正春 2.まちづくり会社と地域の医療、 介護・福祉の連携 斉藤徹史 3.参考事例- 柏の葉キャンパスシティと高松丸亀町商店街- 豊田奈穂 図表図表1-1 人生における3段階図表1-2 医療と介護の需要図表1-3 65歳以上人口割合(1750年-2050年)図表1-4 生涯アプローチ図表1-5 高齢者に必要な5つのケアとケアサイクル図表1-6 50歳以上の人口割合の推移図表1-7 日本の地域構成(2005年対2050年変化)図表1-8 東京通勤圏(2000万人人口圏)図表1-9 まちづくりの4変数図表2-1 竣工年次別オフィスビル棟数図表2-2 秦野市の人口と公共施設累計面積の推移(2009年4月1日現在)図表2-3 秋田都市雇用圏の将来像図表2-4 秋田都市雇用圏人口構成の予測図表2-5 政策資源の配分のストック管理図表2-6 高齢者の人口集積の概念図と都市サービスのコスト図表2-7 人口移動に関わるペイオフ表図表2-8 まちなか集積医療の実現のための政策パッケージ図表4-1 健康福祉医療都市構想図表4-2 都市構造のイメージ図表4-3 初台ヘルシーロード周辺散策ルートの提案図表4-4 これからのまちづくり会社のイメージ図表4-5 柏のキャンパス駅の位置図表4-6 街の平面図図表4-7 高齢者向け(有償の)ソーシャルビジネス図表4-8 高松市中心市街地図表4-9 丸亀町商店街A街区の基本スキームイメージ図 研究体制<研究委員会>酒向正春 デンマーク国立オーフス大学脳神経病態生理学研究所客員教授 (世田谷記念病院副院長/前初台リハビリテーション病院脳卒中診療科長)武田俊彦 厚生労働省政策統括官付社会保障担当参事官室長中川雅之 日本大学経済学部教授長谷川敏彦 日本医科大学医療管理学教室主任教授<NIRA>神田玲子 研究調査部長豊田奈穂 研究調査部主任研究員斉藤徹史 研究調査部主任研究員 引用を行う際には、以下を参考に出典の明記をお願いいたします。(出典)酒向正春・武田俊彦・中川雅之・長谷川敏彦・豊田奈穂・斉藤徹史(2012)「老いる都市と医療を再生するーまちなか集積医療の実現策の提示ー」総合研究開発機構 シェア Tweet ⓒ公益財団法人NIRA総合研究開発機構※本誌に関するご感想・ご意見をお寄せください。E-mail:info@nira.or.jp 研究の成果一覧へ