企画に当たって

東和浩

グリーンへの転換、成否は人材次第だ

円滑な労働移動と戦略のGX化が人材育成に寄与する

東和浩

NIRA総合研究開発機構理事/株式会社りそなホールディングスシニアアドバイザー

KEYWORDS

大阪・関西万博、グリーンへの転換、グリーン人材育成、包括的な政策設計

 大阪・関西万博が、連日多くの来場者でにぎわいを見せている。訪れた人が未来を体感できる「未来社会ショーケース」の1つが、「グリーン万博」である。そこでは、脱炭素社会に向けた先進的な技術が紹介されている。言うまでもなく、「グリーンへの転換」、すなわち脱炭素社会への移行は、地球の未来のために、世界そして日本が社会を挙げて取り組むべき課題である。それは、温室効果ガス(GHG)を大量に排出する産業から、地球環境を考慮した産業への転換を意味すると同時に、必然的に人々の「仕事」に構造的な変化をもたらしつつある。

 経済協力開発機構(OECD)の調査によれば、グリーン転換に寄与する職業、グリーン製品・サービスを提供する業種に就く労働者は、すでに先進国の総雇用の20%程度を占めており、今後さらに増加する見通しである。また、弊機構のアンケート調査からは、就業者の31%がグリーンジョブに関わっていることが明らかになった。脱炭素技術やサステナビリティ・環境問題の専門知識を持つ人材を育成する必要性は、グリーン政策が先行する欧州のみならず、日本でも高まりを見せている。しかしながら、いわゆる「グリーン人材」のあるべき人材像は漠然としている。どのようなスキルを備えた人材を指すのか、専門性を備えた人材をいかに育成するのか、日本社会で知見が十分に共有されているとは言いがたい。他方、GHGを大量に排出する産業は、長く日本経済の中核を担ってきた産業でもある。産業構造が転換する過程で、そこに従事してきた人材をどのように新たな産業に移動していくのかも、重大な課題となろう。

 そこで、本号では、「グリーン人材」を取り上げる。その現状を把握し、グリーン人材育成の今後のあり方について、政策を先導する政府や企業、識者に伺う。また、アジアの脱炭素推進における日本の貢献について考察する。

GXスキルの標準化で業界横断的な動きへ

 GX(グリーントランスフォーメーション)、すなわち脱炭素と産業の競争力強化・経済成長の実現の観点から、必要な人材の定義、そのスキルの標準化に着手したのは経済産業省である。政策を主導する同省の中原廣道課長は、各企業が抱える課題は個別に異なるため、特定の分野の人材を重点的に育成すれば解決できるという問題ではない、とGX特有の難しさを指摘する。同省は企業と協業し、育成事例を業界横断的に集約するとともに、GX人材に求めるスキルを標準化するという2方向から人材像を描いた。いわばスキルと育成方法の「共通言語化」に取り組んでいる。

 グリーン人材育成のための教育コンテンツや専門の教育機関を充実させる必要性を訴えるのは、企業の脱炭素化支援や人材育成・仲介を行うアスエネ株式会社の西和田浩平CEOだ。成長産業でもあるグリーン分野で人材の需要が高まる一方で、社会全体に知見の蓄積がなく、人材育成のノウハウはいまだに手探りだと指摘する。

 GXは企業ごとに課題が異なる一方、新たな技術や制度に精通する人材を、企業単独で育成するには時間がかかる。日本は、税制や排出権取引などの社会の枠組み整備が進む欧州に比べ、社会全体でグリーン分野への経験値が浅いと言える。こうした日本の現状において、どう人材を育成し、需要を満たしていくのかは、まだ手探りだ。スキルの標準化は、グリーン人材育成への第一歩になるうえ、GX人材に対する共通の見解として、労働者自身の指標にもなるだろう。

課題解決と人材育成に複合的な視点を

 同時に、複数の識者からは、複合的な視点を持った取り組みが不可欠だという認識が示された。

 東京大学で「SPRING GX」事業統括を務める大越慎一教授は、地球規模の課題解決には、技術イノベーションだけでなく、法制度や倫理などの経済社会のあらゆる諸相が関連すると述べる。同プログラムでは、博士課程の学生同士の分野を越えた交流や、学生の派遣による国際的な研究機関のネットワーク構築を展開する。これが30年後の社会をけん引する知的ネットワークの基盤につながるという展望に期待したい。

 また、日本サステナブル投資フォーラムで理事を務める岸上有沙氏は、事業者及び投融資を行うファイナンス側双方に、多角的な視点と複合的なアプローチを可能にするチームを作って取り組む必要があると力説する。チームに不可欠なのは、「なぜ気候変動に対応すべきか」「なぜ生物多様性の保全に価値があるのか」など「WHY」を問い、それらの重要性を真に理解する資質や、複数の事象の関連を総合的に見る資質だ。それらを育てるには、個々人が多角的な見聞を重ねる「現場」での蓄積に加え、サステナビリティを軸にしたMBA課程等の充実や金融教育が重要だとする。

 さらに、脱炭素化が地球規模の課題であるという点では、対外協力はまさに重要な事業だ。日本は長年、国際協力機構(JICA)を中心にアジアへの環境協力を続けており、途上国自らが環境問題に対処できる能力の向上を目指してきた。JICAの宮崎桂副理事長は「JICAの活動の道筋はグリーン人材育成への貢献への歴史だ」と述べ、今後も多様な交流の場を提供し、日本とアジアが相互に学び、刺激しあう「環流」をより推進してきたい、と力を込めた。

産業転換をイノベーションにつなげられるかは、人材次第

 かつて日本が石炭から石油にエネルギー構造を転換した際には、石炭・鉱業から離職した人に対して、政府が教育訓練や職業紹介などの制度を整備し、多くの労働者が新たな産業に移ることができた。エネルギー供給体制の近代化が「ものづくり日本」を確立したように、グリーンエコノミーへの移行は、国際的リーダーシップを再び確立するための転換点となりうる。リスキリングや専門教育の充実を通じ、労働力の円滑な移動のための包括的な政策設計が、あらためて政府に求められる。

 また、企業自身にも、GXを前提とした成長戦略・経営目標を描いたうえで、グリーンに携わる人材が成長のコア人材であるという認識を労使で共有していくことが求められるだろう。脱炭素産業が日本経済のイノベーションをけん引する産業に育てられるかは、人材次第だ。そのための産官学それぞれの挑戦が、今まさに問われている。

識者に問う

グリーン人材に期待されるスキルは何か。グリーン人材の育成を加速するための方策とは。

中原廣道

官民でGXスキルを標準化、企業は人材の育成・活用を

中原廣道

経済産業省GXグループ環境政策課課長

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人材確保事例集、GX人材スキル標準、排出量取引制度

 日本政府におけるGX(グリーントランスフォーメーション)の取り組みの主眼は、二酸化炭素の排出量削減にとどまらず、「脱炭素」を契機として、日本経済や産業競争力を強化するとともに、エネルギーの安定供給を実現していくことだ。政府としては、20兆円規模の先行投資支援とカーボンプライシングの段階的導入の一体的措置である「成長志向型カーボンプライシング構想」を推進している。先行投資支援では、排出削減が困難な産業の製造プロセス転換から、蓄電池、水素・アンモニア導入、建築物や自動車など多岐にわたり、産業界にGXへの挑戦を促している。成否は、ひとえにすぐれた人材が集まるかどうかによる。

 GX人材に関し、経済産業省では大きく2つの取り組みを行ってきた。1つは、各企業の人材確保事例集の公開だ。GXは産業界全体の課題であり、技術領域も広範で、特定分野の人材育成により解決できるものではなく、業種や企業ごとに課題や対応方法が異なる。各社が適切なヒントを得るためにも、まずは業界横断的に知見を集約することが重要だ。事例集では幅広い業種・規模の企業に取材し、具体的な人材獲得・育成策を網羅的に記載している。

 もう1つは、GXに積極的な企業と政府が一体となって取り組んだGX人材スキルの標準化だ。「GXリーグ」における産官学の議論を通じて、産業横断的なスキルを定義した。まず、GXの重要性を理解するために必要な知識を「GXリテラシー」として一覧にし、GX推進に必要となる人材を5つの類型に分類した。さらに、それぞれに細分化した業務(ロール)を整理し、求められる役割やスキル、他ロールとの連携例等を示した。これらのスキルを現場で育成・評価できるようにするため、役割ごとにレベル別の達成度も定めた。

 目下のところ、来年度から本格的に開始される排出量取引制度に備えた人材育成が急がれる。新制度の下では、対象企業は二酸化炭素の排出実績量等を国に報告することが義務となり、その際、第三者である登録確認機関による確認が求められているため、対象企業および登録確認機関における人材ニーズが顕在化している。特に、品質管理に関する知識と技術的知見が必要とされる登録確認機関の人材確保・育成に関しては、監査法人系機関やISO検証機関等、異なる知見を持つ関係者が連携して、専門知識を有する人材を育成する枠組みを構築するなど、必要な対応を検討していく。

識者が読者に推薦する1冊

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経済産業省〔2025〕「GX関連企業における人材確保に関する取組事例集」令和7年3月

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グリーン人材に期待されるスキルは何か。グリーン人材の育成を加速するための方策とは。

西和田浩平

次世代のコア、グリーン人材を育成する環境整備を急げ

西和田浩平

アスエネ株式会社Founder代表取締役CEO

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サステナビリティ・コンサルタント、グリーンとデジタル、手探りの教育ノウハウ

 脱炭素社会への移行に伴い、グリーン産業に関連する雇用は、2030年までに世界で2,400万人ほど増えると試算されている。気候変動関連の技術開発や再生可能エネルギー(再エネ)産業への人材の流れは進んでいるものの、年々急増しているグリーン人材の需要に、供給が追い付かなくなる。他方、欧州に後れをとっていた日本の脱炭素化への取り組みは、この2、3年でかなり進展した。第7次エネルギー基本計画(2025年2月)で、政府が電源構成における再エネ比率を倍増する見通しを示したことで、今後、太陽光発電や洋上風力発電で人材の需要が増えることが想定される。

 今、需要が増えているのは「サステナビリティ・コンサルタント」といった新領域の知識人材である。背景には、上場企業にサステナビリティ関連情報の開示を求める流れがある。自社の排出量の計算、どのように排出量を下げていくのか―といった計算は、専門教育を受けていなければなかなかできるものではない。専門知識を持ち、企業の情報開示戦略をはじめ、脱炭素経営の推進をアドバイスできる人材が求められているが、足りていない。また、ジョブローテーションが前提の日本企業では、担当者の経験が途絶してしまうことも問題だ。

 さらに、太陽光や洋上風力発電などの知見を持った「技術系グリーン人材」の数が限られている。新たな産業であるグリーン分野はDXと並ぶ成長産業の1つだ。今後、再エネの拡大が進む中で、古い構造の原子力発電や石炭火力発電といったオールドインダストリーからグリーン分野への人の移動は、重要な課題となる。また、すでにGAFAMのようなテック企業から技術者が移転しているとも聞いている。グリーンとデジタルのスキルを身に着けたGX人材は次世代のコア人材である。

 日本では官民協働の「GXリーグ」がスキルの標準化を進めているが、専門の教育機関も足りず、教育のノウハウはまだ手探りだ。税制や排出権取引にしても、日本は欧州と比較してスピード感と実行力に欠けるため経験値が浅く、社会全体に知見が蓄積されていない。だが、新卒採用市場でもGX人材の市場価値が高まっており、成長市場に自分の身を置くことで自分の価値を高めようとするニーズはある。人材の育成を後押しするような教育内容の充実や公的なインフラを整備することが求められる。

識者が読者に推薦する1冊

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ビル・ゲイツ〔2021〕『地球の未来のため僕が決断したこと』山田文(翻訳)、早川書房

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グリーン人材に期待されるスキルは何か。グリーン人材の育成を加速するための方策とは。

大越慎一

気候変動問題、T型人材が社会変革を先導する

大越慎一

東京大学大学院理学系研究科教授

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SPRING GX、T型人材、世界的なネットワーキング

 地球という人類共有の財産に、気候変動問題は影を落としている。気候変動問題は、人類のあらゆる活動に多面的に深く関連するものであり、狭義の技術開発のみで解決し得るものではない。技術イノベーションに加えて、法制度やメディア、教育、哲学、そして倫理など、経済社会のあらゆる諸相を通じて人々に行動を促し、地球をよりよく管理するための仕組みを構築する必要がある。

 こうした社会変革を先導する高度人材を十分な規模で輩出するため、東京大学では、2021年から全分野の博士課程の学生を対象に「SPRING GX」というプログラムを開始した。これは全学を挙げた取り組みで、研究科は15に及ぶ。プログラムが育成する研究者像は「好奇心を忘れず、常に挑戦的な研究者であること」「専門以外の多様な分野を知り、高度で幅広い教養を身に着けた人材であること」「さまざまな分野の研究者と創発的な研究が行える人材であること」「社会課題を解決していく視点を持つ人材であること」―である。まさに、高い専門性と研究力を備えたプロフェッショナルな人材が、気候変動問題を軸に、異なる専門分野の知見を涵養かんようする「T型人材」になることが求められる。

 主幹となるプログラムでは、文理を越えた多分野の学生1,315人が、GXに関する講義を聴き、その後、グループに分かれて課題を議論する。学生は、異分野の同世代の仲間とのやり取りを通じて、例えば、海洋プラスチックの課題を解決するためには、哲学のフレームが必要であること、仮に課題が同じであったとしても、国によって法律や制度が違うため、解決策が異なることを理解する。さらに、それを国際的に展開させるために、年間400人以上の学生を30の国と地域に派遣し、GX研究の世界的なネットワーキング構築を始めている。派遣先となるのは、米スタンフォード大学といった海外のSDGsランキング上位の大学や研究機関だ。

 プログラムを通じて得られたスキルは、研究を越えた分野でも生かすことができるトランスファラブルなものである。異分野の研究者との関係を築くスキルを体得した大学院生が、30年後にはさまざまな分野や業務で、知的ネットワークの中核として活躍し、社会の課題解決をけん引していくに違いない。

識者が読者に推薦する1冊

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S. Ohkoshi, M. Yoshikiyo, J. MacDougall, Y. Ikeda, H. Tokoro〔2023〕 "Long-term heat-storage materials based on λ-Ti3O5 for green transformation (GX)" Chem. Commun., 2023, 59, 7875

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グリーン人材に期待されるスキルは何か。グリーン人材の育成を加速するための方策とは。

岸上有沙

「WHY」を問い、共通認識を組み立てられる人材を育てよ

岸上有沙

特定非営利活動法人日本サステナブル投資フォーラム理事

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複合的アプローチ、「現場」に足を運ぶ、金融経済教育

 気候変動に関わる対応を、脱炭素化につながる取り組みだけに着目して進めても失敗するだろう。成功させるには、短期・中期・長期の影響を考え、多角的な視点と複合的なアプローチを可能とするチームの育成と構成が必要となる。また、そのチームは、企業側と、投融資を通じてその取り組みを評価・促進するファイナンス側との双方に不可欠だ。

 チームには、次の3つの資質や能力を持つ人材が必要だと考える。

 第1に、「なぜ気候変動に対応すべきか」など、「WHY」を問う力を持ち、その重要性を真に理解する資質である。企業、生活者、投資家などそれぞれの立場で、納得できる論理を組み立てる能力が求められる。

 第2に、複数の事象の関連性を総合的に見る資質である。例えば、他国で見られる気候変動の影響が自国企業のサプライチェーンに与えるリスクや、対応に必要な原材料の採掘が与える自然資本・人への影響などを予測して、複合的に思考し行動する力である。

 これら2つの資質は、国内外のさまざまな「現場」に足を運び、課題を多角的に見聞きする機会を増やすことで培われる。また、人材の流動性を高め、異なるセクター、業種、仕事の経験を持った人材を取り入れることも重要だ。さらに、短期的な業績への貢献に加えて、長期的なビジネス・アイデアの創出や、他部署・他業種・他国との連携といった、多角的な視点を持つ人材を評価するシステムも必要と思われる。

 さらに、近年は、統合した経営と会計報告が求められる中、目的に沿った専門人材を効果的に活用することも不可欠となっている。このため、第3の資質として、気候や生態系の変化を捉える専門知識、ビッグデータを解析する能力をもった専門人材に加え、そのニーズを理解し、内外のデータを効果的に活用するための言語・対話・連携能力が挙げられる。

 これらの資質を持つ人材を育成するには、ファイナンス・経営双方の視点から学習機会を強化することが必要と思われる。金融経済教育においては、投資手法など「HOW」に加え、金融・投資行動が本来果たし得る社会的な役割、経済活動との結び付きが盛り込まれることが期待される。また、例えば大学院のMBA(経営学修士)において、サステナビリティを単なる1講座として扱うのではなく、経営全体の在り方として「サステナブルな経営」を中心に据えたコース設計が期待される。

識者が読者に推薦する1冊

識者が読者に推薦する1冊

水口剛・高田英樹(編著)〔2023〕『サステナブルファイナンス最前線』金融財政事情研究会

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グリーン人材に期待されるスキルは何か。グリーン人材の育成を加速するための方策とは。

宮崎桂

アジア各国を共創パートナーとして、地球規模の課題に立ち向かう

宮崎桂

独立行政法人国際協力機構副理事長兼最高サステナビリティ責任者(CSO)

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開発途上国の能力向上、環境研究研修センター、地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム(SATREPS)

 急成長を遂げているアジアは、脱炭素社会への移行が最も難しい地域だ。戦後の公害期の痛みを経て環境保全と経済成長の両立に成功した日本は、その経験を開発途上国と共有してきた。持続性を重視する国際協力機構(JICA)の活動の道筋は、グリーン人材育成への貢献の歴史である。私が数年前に駐在したタイは、環境問題に関する日本の技術協力のスタートとなった国だ。JICAが設立に協力した環境研究研修センターは、1989年にタイで設立された。以後、同センターを拠点に、JICAは専門家派遣、モニタリング、研究、研修を行い、途上国が自ら環境問題に対処していく能力の向上を目指してきた。

 近年は人材育成のプログラムがより多様になった。「地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム(SATREPS)」は科学技術振興機構、日本医療研究開発機構と連携し、日本と途上国の国際共同研究を推進する。2008年以降、62カ国・214件のプロジェクトを実施してきた。環境・エネルギー、生物資源、防災、感染症の4分野で、現地のニーズを踏まえ、日本と途上国の研究者がともに取り組む。実社会で活用可能な知識や技術と、それを使える人材を輩出し、当該国の社会に還元してきた。

 他にも、数多くの人材育成プログラムを実施している。自国の脱炭素社会への変容シナリオを立案・実現する行政官、技術者を育成する留学制度「GX人材育成プログラム」は、日本の大学院で、水素、核融合、次世代原子力などの先端技術分野を中心に、エネルギー政策史やエネルギー移行モデル分析、電力事業体経営などを学ぶ。2023年に6人の受け入れからスタートし、2025年は25人を受け入れる予定だ。また、「気候変動対策中核人材育成プログラム」は、より若手の人材育成を目的とし、自国が定める削減目標に関する進捗しんちょく評価の方法、交通セクターにおける温室効果ガス排出量削減政策などを習得する。いずれも、アジア・ゼロエミッション共同体(AZEC)構想の促進を視野に入れた取り組みだ。

 多様な交流の場を提供し、相互に刺激しあう関係は、日本にもプラスになる。成長が続く途上国では、日本では実証できない技術的な挑戦ができることも多い。アジア各国のパートナーとの共創を通じ、日本の技術や経験を伝えることに加え、各国での開発課題解決の取り組みを日本でも活用することで、知見を「環流」する取り組みを、より推進していきたい。

識者が読者に推薦する1冊

識者が読者に推薦する1冊

福田宗弘・関荘一郎・渡辺靖二〔2021〕『日・タイ環境協力―人と人の絆で紡いだ35年』佐伯コミュニケーションズ

引用を行う際には、以下を参考に出典の明記をお願いいたします。
(出典)NIRA総合研究開発機構(2025)「グリーンへの転換、成否は人材次第だ」わたしの構想No.79

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  • GXリーグ「GXスキル標準」の概要

    GXリーグ「GXスキル標準」の概要

    注)GXインベンターは、主にアカデミアを主体とした研究開発人材のことであり、スキル標準Ver2.0でスコープ対象外となった。
    出所)GXリーグGX人材市場創造WG「GXスキル標準(GXSS)」(2025年5月)等よりNIRA作成。

  • GXリーグ「GXスキル標準」の概要

    注)GXインベンターは、主にアカデミアを主体とした研究開発人材のことであり、スキル標準Ver2.0でスコープ対象外となった。
    出所)GXリーグGX人材市場創造WG「GXスキル標準(GXSS)」(2025年5月)等よりNIRA作成。

  • 世界の産業別「グリーン人材の求人率」と「労働者のグリーンスキル保有率」

    世界の産業別「グリーン人材の求人率」と「労働者のグリーンスキル保有率」

    注1)2024年時点でLinkedInに登録された求人情報やプロフィール情報に基づく。
    注2)「公益事業」には、再生可能エネルギーのほか、送電・配電、天然ガス、上下水道に関連するサービスが含まれる。
    出所)LinkedIn「Global Green Skills Report 2024」よりNIRA作成。

  • 世界の産業別「グリーン人材の求人率」と「労働者のグリーンスキル保有率」

    注1)2024年時点でLinkedInに登録された求人情報やプロフィール情報に基づく。
    注2)「公益事業」には、再生可能エネルギーのほか、送電・配電、天然ガス、上下水道に関連するサービスが含まれる。
    出所)LinkedIn「Global Green Skills Report 2024」よりNIRA作成。

  • 日本のグリーン人材:領域・職種別内訳(2024年)

    日本のグリーン人材:領域・職種別内訳(2024年)

    出所)デロイトトーマツグループ(2024)「グリーントランスフォーメーション人材調査--ネットゼロの実現を担うGX人材の現在」

    付表

  • 日本のグリーン人材:領域・職種別内訳(2024年)

    出所)デロイトトーマツグループ(2024)「グリーントランスフォーメーション人材調査--ネットゼロの実現を担うGX人材の現在」

    付表

  • JICAの開発途上国への協力実績:気候変動対策分野

    JICAの開発途上国への協力実績:気候変動対策分野

    出所)国際協力機構(2021~2023)「サステナビリティ・レポート」、同(2024)「統合報告書」より、NIRA作成。

    付表

  • JICAの開発途上国への協力実績:気候変動対策分野

    出所)国際協力機構(2021~2023)「サステナビリティ・レポート」、同(2024)「統合報告書」より、NIRA作成。

    付表

©公益財団法人NIRA総合研究開発機構
神田玲子、榊麻衣子(編集長)、河本和子、山路達也
※本誌に関するご感想・ご意見をお寄せください。E-mail:info@nira.or.jp

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